名古屋市名東区上社に建つ、音楽に特化した、共同住宅と店舗で構成された複合施設である。
設計を進めるに当たりまず注目したのは、名東区近辺の近隣にある音大や芸大の音楽科の存在である。多くの音楽の才能が輝いているにも関わらず、東京にあるような音楽家を満足させるような防音マンションのような環境が皮肉にも欠けていたことが判明した。そこで、音楽と共に生きる多くの人々のための防音マンションとして、このプロジェクトをスタートすることとなった。
さらにクライアントとの詳細なヒアリングを経て、この土地が祖父母の思い出と深く結びついていること、そして祖母が舞踊の先生であったことを知った。かつての舞踊の教室は地域のコミュニティの中心でもあった。これを受け、音楽家のための防音マンション単体ではなく、地域住民と音楽家が交流を深めることができる公共のスペースを持つ複合施設の構築が望ましいと考えられた。
平面は建物名「Grande Souche」の通り、大きなウロの様な中庭を持つ大きな切り株の様な形状とした。これは、敷地のユニークな形状から生まれたデザインではあるが、独特な形状を持つ空間が、音の拡散性を自然に高めることを発見した結果でもある。いびつな形状を逆手にとって、各住戸の個性的な平面形を獲得しながら、住戸間に水回りを挟むプランとすることで、事業性に考慮してコストを抑えつつ防音性能を高めることとした。また、窓ガラスは複層よりも二重窓としたほうが遮音性能が高かったり、水回りを戸堺壁に必ず配置して空気のバッファーをつくるなど、特別な工法は用いずに、最終的にはD50～60程度の遮音性能を確保した。
断面的には、1階には店舗や音楽スタジオを配置して2階から4階は防音性能を持つ住戸として計画した。中庭は各階のコミュニケーションを促進する要素として位置づけられ、音楽イベントなどを気兼ねなく楽しめる音楽愛好家と地域住民のための複合施設の実現を目指した。
